さて、講義を続けましょう。
P26「法の効力の及ぶ範囲」です。
まず、場所的範囲です。
法は、法律関係を規律するものであり、法的制裁(サンクション)を伴います。
そのため、他国にこれが及ぶと、他国の国家主権を侵害するなどの問題を生じます。
そこで、法の効力は、自然、一定の範囲に限定されます。
法の中でも、法的制裁が最も厳しい刑法は、
属地主義を基本とし、補充的に、保護主義、属人主義、世界主義を採っています。
次の表のとおりです。確認しておいてください。
属地 主義 | 第1条 (国内犯) …刑法は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用されます。 ※日本国外にある日本船舶または日本航空機内において罪を犯した者についても、同様です。 |
保護 主義 | 刑法2条 (すべての者の国外犯) …たとえば、日本国外において、外国人が内乱罪を犯した場合 ※「すべての者」であるから、日本国民も含まれる。 刑法4条 (公務員の国外犯) …たとえば、日本国外において、日本の公務員が収賄罪を犯した場合 ※「公務員」は、日本国民に限られない。たとえば、外国に在る日本大使館の現地採用の外国人がこれに当たる。 |
属人 主義 | ・積極的属人主義…日本国外において、日本国民が犯した犯罪に対しては、日本の刑法を適用するもの。日本国民が加害者となる場合である。 刑法3条 (国民の国外犯) …たとえば、日本国外において日本人が殺人罪を犯した場合 ・消極的属人主義…日本国外において、日本国民に対する犯罪に対しては、日本の刑法を適用するもの。日本国民が被害者となる場合である。平成15年新設。 刑法3条の2 (国民以外の者の国外犯) …たとえば、日本国外において外国人が日本国民に対して殺人罪に当たる行為を行った場合 |
世界 主義 | 世界各国に共通する一定の法益を侵害する犯罪に対して、犯罪地及び犯人の国籍を問わず、各国がそれぞれ自国の刑法を適用する立場をいう。 刑法4条の2 (条約による国外犯) は、「第2条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第2編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。」と規定し、世界主義へ一歩近づいたと評価されている。 ※具体例 犯罪地:日本国外 犯人:外国人 ハイジャック機:外国機 被害者:外国人 犯人の現在地:日本国内 このような場合、刑法1条~4条では処罰できない。そこで、このような場合、「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」を批准することによって、その犯人を刑法4条の2より処罰することができる。 ※航空機の不法な奪取の防止に関する条約7条 犯罪行為の容疑者が領域内で発見された締約国は、その容疑者を引き渡さない場合には、その犯罪行為が自国の領域内で行なわれたものであるかどうかを問わず、いかなる例外もなしに、訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する義務を負う。その当局は、自国の法令に規定する通常の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行なう。 |