平成22年度 行政書士試験 問題30は、「抵当不動産からの分離物に対する抵当権の追及効」に関する組合せ問題でした。
設問の【考え方】に沿って、各肢を検討する問題ですが、民法177条の「第三者」の意義、非占有担保たる抵当権の性質の理解も問われていますので、大変だったのではないでしょうか。
おそらく、正答率は、5割を下回っているのではないかと思います。
よく復習をしておいてください。
なお、いくつかの解答解説を拝見させていただきました。
おおむね、良い解説が出揃っているようですが、【考え方】は、土地についてなされた抵当権の登記の公示力が、伐採木材がその土地の上にある限り依然としてその物に及ぶという論理で抵当権の効力を認めるものですから、民法178条ではなく、民法177条の「第三者」の問題です。
また、肢イの即時取得に関し、何を即時取得するのかについて触れてあるものがありませんでした。唯一、触れてあるものを見つけましたが、「Bは、伐採により抵当権侵害をしているから、伐採木材につき無権利である」旨の記述があり、かなり驚きました。伐採木材について、Bが所有権を失うとすると、その所有者は誰になるのですか???無主物なのでしょうか???
そういうわけで、「解説者泣かせ」の問題ではありました。
では、平成22年度 行政書士試験 問題30の解答解説を載せておきます。
問題30 A銀行はBに3000万円を融資し、その貸金債権を担保するために、B所有の山林 (樹木の生育する山の土地。本件樹木については立木法による登記等の対抗要件を具備していない) に抵当権の設定を受け、その旨の登記を備えたところ、Bは通常の利用の範囲を超えて山林の伐採を行った。この場合に、以下のア~オの記述のうち、次の【考え方】に適合するものをすべて挙げた場合に、妥当なものの組合せはどれか。なお、対抗要件や即時取得については判例の見解に立つことを前提とする。
【考え方】:分離物が第三者に売却されても、抵当不動産と場所的一体性を保っている限り、抵当権の公示の衣に包まれているので、抵当権を第三者に対抗できるが、搬出されてしまうと、抵当権の効力自体は分離物に及ぶが、第三者に対する対抗力は喪失する。
ア 抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却された場合には、A銀行は第三者への木材の引渡しよりも先に抵当権の登記を備えているので、第三者の搬出行為の禁止を求めることができる。
イ 抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却され、占有改定による引渡しがなされたとしても、第三者のために即時取得は成立しない。
ウ Bと取引関係にない第三者によって伐採木材が抵当山林から不当に別の場所に搬出された場合に、A銀行は第三者に対して元の場所へ戻すように請求できる。
エ Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後に、第三者がBから木材を買い引渡しを受けた場合において、当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っているときは、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できない。
オ 第三者がA銀行に対する個人的な嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後に、Bから木材を買い引渡しを受けた場合において、A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない。
1 ア・イ・ウ・エ
2 ア・イ・ウ・オ
3 ア・イ・エ
4 ア・ウ・エ
5 イ・ウ・オ
問題30 正解 2
ア 妥当である
抵当山林上に伐採木材がある場合、【考え方】に従えば、当該木材について抵当権の効力が及び、これを第三者に対抗することができる。
この抵当権の効力として、搬出行為の禁止を請求しうるか。
この点、判例 (大判昭和7年4月20日) は、立木が伐採・搬出された事案において、その行為の差止めを請求しうるとしている。
よって、伐採木材がBから第三者に売却された場合であっても、A銀行は、第三者への木材の引渡しよりも先に抵当権の登記を備えているので、第三者の搬出行為の禁止を求めることができる。
イ 妥当である
肢アの解説のとおり、抵当山林上に伐採木材がある場合、【考え方】に従えば、当該木材について抵当権の効力が及び、これを第三者に対抗することができる。このため、第三者が抵当権の負担 (拘束) を受けない完全な所有権を取得するためには、当該木材を即時取得するしかない。
もっとも、本肢では、第三者は、Bから占有改定による引渡しの方法により当該木材を取得している。そこで、占有改定による引渡しが民法192条の「占有を始めた」に当たるかが問題となる。
この点、判例 (最判昭和35年2月11日) は、「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない。」と判示している。
よって、占有改定による引渡しがなされたとしても、第三者のために即時取得は成立しない。
※ 民法192条の要件として、「動産を処分する権限のない者から占有を承継したこと」が挙げられる。この「動産を処分する権限のない者」の典型例として挙げられる者は、動産の所有権を有しない者であるが、抵当権設定者が抵当権者の同意なしに抵当目的物から分離し、その物を処分した場合、その者は、「抵当権の負担のない所有権の処分権限のない者」として「動産を処分する権限のない者」に当たることになる。
ウ 妥当である
伐木木材が抵当山林から搬出された場合、【考え方】に従えば、抵当権の効力自体は当該木材に及ぶが、第三者に対する対抗力を喪失する。このため、第三者が当該木材を抵当山林から搬出した場合、抵当権者は、第三者に対して抵当権の効力 (たとえば、搬出されたものを、元の場所に搬入することを請求 (返還請求) すること) を主張することはできなくなる。
もっとも、本肢では、Bと取引関係にない第三者が当該木材を抵当山林から不当に別の場所に搬出している。そこで、このような無権利者であっても、不動産物権変動の対抗要件に関する民法177条の「第三者」として保護されるかが問題となる。
この点、判例 (大連判明治41年12月15日) は、同条の「第三者」とは、不動産物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいうと解し、無権利者は、これに含まれないとしている (たとえば、不法占有者に関して最判昭和25年12月19日。)
よって、「A銀行は、第三者に対して元の場所へ戻すように請求できる」との記述は妥当である。
エ 妥当でない
肢ウの解説で述べたとおり、伐木木材が抵当山林から搬出された場合、【考え方】に従えば、抵当権の効力自体は当該木材に及ぶが、第三者に対する対抗力を喪失する。
もっとも、本肢では、当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っている。そこで、このような悪意の第三者であっても、不動産物権変動の対抗要件に関する民法177条の「第三者」として保護されるかが問題となる。
この点、判例 (大判明治45年6月1日) は、民法177条の「第三者」は、その善意・悪意を問わないとしている。
よって、「当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っているときは、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できない」との記述は妥当でない。
オ 妥当である
肢ウの解説で述べたとおり、伐木木材が抵当山林から搬出された場合、【考え方】に従えば、抵当権の効力自体は当該木材に及ぶが、第三者に対する対抗力を喪失する。
もっとも、本肢では、第三者は、Aに対する個人的嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から当該木材を別の場所に搬出させた後に、これを買い、その引渡しを受けている。そこで、このような背信的悪意者 (=登記の欠缺を主張させることが信義則に反するような事情を有する者) であっても、不動産物権変動の対抗要件に関する民法177条の「第三者」として保護されるかが問題となる。
この点、判例 (最判昭和40年12月21日等) は、民法177条にいう「第三者」については、一般的には、その善意・悪意を問わないものであるが、不動産登記法4条 (現在の同法5条1項に相当する。) 又は5条 (現在の同法5条2項に相当する。) のような明文に該当する事由がなくても、少なくともこれに類する程度の背信的悪意者は、民法177条の「第三者」から除外されるべきであると判示している。
したがって、Aは、第三者に対して抵当権の効力を主張することができる。もっとも、Aは、抵当権者である。抵当権は、非占有担保権であるため、第三者に対して自己への引渡しを求めることができるかが問題となる。
この点、判例 (最判平成17年3月10日) は、「抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。」と判示している。
よって、「A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない」との記述は妥当である。
以上により、妥当なものは、ア・イ・ウ・オであるから、正解は2である。
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