平成21年度 行政書士試験 問題36は、「商人間の取引」に関する正誤問題でした。
商法の条文に合わせて事例が設定されており、試験委員の努力の跡がうかがわれます。
正解肢は、予想された条文からの出題ですので、得点すべきですが、事例形式になると難易度は、やはり上がりますね。
なお、肢3については、債務不履行の問題になると思うのですが……。
商法527条に合わせて事例が設定されていたため、そちらで解説を書きましたが、いまだに謎です。
では、平成21年度 行政書士試験 問題36の解答解説を載せておきます。
問題36 商人間の取引に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。
1 A株式会社は、輸入業者Bとの間で牛肉の売買契約を締結し、Aの仕入れ担当者が引渡しに立ち会った。4ヶ月後に、当該牛肉に狂牛病の可能性のある危険部位があることが分かったため、直ちにBに通知した。この場合に、AはBに対して売買契約の解除、代金の減額または損害賠償を請求することができる。
2 A株式会社は、輸入業者Bとの間でコーヒー豆の売買契約を締結した。Aの仕入れ担当者はコーヒー豆の納入に立ち会い、数量の確認および品質の検査を行った。その際、コーヒー豆の品質の劣化を認識していたが、Bに直ちには通知しなかった。この場合に、AはBに対して売買契約の解除、代金の減額または損害賠償を請求することができない。
3 A株式会社は、輸入業者Bとの間でチューリップの球根の売買契約を締結した。Aの仕入れ担当者が引渡しに立ち会ったところ、球根の種類が予定していたものと異なっていた。そこで、Aは直ちに売買契約の解除をBに通知した。Bの営業所が同一市内にあったため、Bが引き取りに来るまでの間、Aは球根を放置していたところ、発芽し、売り物には適さないものになったが、Aには責任はない。
4 A株式会社は、輸入業者Bとの間でバナナの売買契約を締結した。履行期日になったが、Aの加工工場でストライキが起こり、Aは期日にバナナを受領することができなかった。そこでBは、Aへの催告なしに、そのバナナを競売に付し、競売の代金をバナナの代金に充当したが、これについて、Bに責任はない。
5 A株式会社は、輸入業者Bとの間でクリスマス商品の売買契約を締結したが、輸出国の工場での製造工程にトラブルが生じ、商品の製造が遅れたため、納入がクリスマスに間に合わなかった。Aが、Bに対して契約の解除等何らの意向を示さずに、Bからの度重なる連絡を無視し続けた場合、クリスマス商品の受領を拒むことはできない。
問題36 正解 5
1 妥当である
A株式会社の仕入れ担当者は、売買の目的物である牛肉の引渡しに立ち会っているにもかかわらず、その牛肉に瑕疵があることを通知したのは、4ヶ月後である。この場合でも、A株式会社は、輸入業者Bに対して売買契約の解除、代金の減額又は損害賠償を請求することができるか。
この点、商法526条1項は、「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。」と規定し、同条2項は、「前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。」と規定している。
本肢に当てはめると、売買の目的物である牛肉の中に狂牛病の可能性のある危険部位があることは、買主の専門的能力を考慮しても直ちに発見することができない瑕疵であるといえるから、売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合に当たる。この場合、買主は、瑕疵を発見後直ちに売主に対してその旨を通知すれば、契約の解除等をすることができる。
よって、A株式会社は、輸入業者Bに対して売買契約の解除又は代金の減額若しくは損害賠償の請求をすることができる。
2 妥当である
商法526条1項は、「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。」と規定し、同条2項は、「前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。」と規定している。このように、売買の目的物に瑕疵又は数量の不足があることを発見したにもかかわらず、直ちに売主に対してその旨の通知を発しないときは、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除等をすることはできない。
よって、A株式会社は、輸入業者Bに対して売買契約の解除又は代金の減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。
3 妥当である
商法526条1項は、「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。」と規定し、同法527条1項は、「前条第1項に規定する場合においては、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、又は供託しなければならない。ただし、その物について滅失又は損傷のおそれがあるときは、裁判所の許可を得てその物を競売に付し、かつ、その代価を保管し、又は供託しなければならない。」と規定し、同条4項は、「前3項の規定は、売主及び買主の営業所 (営業所がない場合にあっては、その住所) が同一の市町村の区域内にある場合には、適用しない。」と規定している。
このように、商人間の売買において、買主がその目的物を受領し、その検査により瑕疵又は数量の不足を発見したため契約を解除したときでも、売主は、原則として、売主の費用をもって売買目的物の保管等をしなければならないが、売主及び買主の営業所が同一の市町村の区域内にある場合には、これを要せず、この場合には、民法の原則に戻って、買主は、原状回復のために目的物を返還する義務を負うにすぎない (同法545条1項本文)。
本肢に当てはめると、A株式会社は、売買の目的物を受領し、その検査により瑕疵を発見したため契約を解除しているが、A株式会社と輸入業者Bの営業所は、同一の市町村の区域内にあるため、保管義務を負わない。
よって、A株式会社は、輸入業者Bに対して損害賠償等の責任を負わない。
■ なお、本肢は、商法527条に合わせて事例が設定されていたため、当該条文を当てはめて処理した。
しかし、引き渡された物が契約の目的物と異なる場合には、債務不履行の問題となると解されており (多数説)、この場合には、目的物の検査・通知義務 (同法526条) や、これを前提とする目的物の保管・供託義務 (同法527条) は課されないことになる。
そこで、本肢について、いずれの解説が妥当であるかは、いささか迷うところではある。
4 妥当である
商法524条1項は、「商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。」と規定し、同条2項は、「損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。」と規定し、同条3項は、「前2項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。」と規定している。
よって、輸入業者Bは、A株式会社に対して損害賠償等の責任を負わない。
5 妥当でない
商法525条は、「商人間の売買において、売買の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす。」と規定している。
本肢に当てはめると、クリスマス商品は、クリスマスの時期にもっとも売れ、その他の時期にあっては、ほとんど売れないというのが実情である。このため、クリスマス商品は、売買の性質により、一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないものに当たる。このため、クリスマス商品の納入がクリスマスに間に合わなかった場合は、A株式会社が、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなされ、このことは、A株式会社が、Bに対して契約の解除等何らの意向を示さずに、Bからの度重なる連絡を無視し続けた場合であっても、その結論が異なることはない。
よって、A株式会社は、輸入業者Bからのクリスマス商品の受領を拒むことができる。
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