平成17年度 行政書士試験 問題32は、「株式会社に対する設立」に関する組合せ問題でした。
この問題が出題された当時は、肢ア、エ及びオは基礎知識に属するものでした。それゆえ、得点すべきでしたね。
しかし、平成17年改正を経た現在において、肢オが間違いなく正しいということはいえないように感じます。なぜなら、平成17年改正前商法166条1項6号は、「会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式ノ総数」を定款の絶対的記載事項としていましたが、この規定は削除されましたからね。
今回も解説を書くとき、いろいろなものを見ましたが、この点について触れている基本書はありませんでしたね。
また、市販の過去問も、肢オだけ旧条文をあげているもの、根拠条文を挙げるのみで解説を一切書いていないものばかりで、とても参考になりませんでしたね。
今回は、一応の解説を書いておきますが、再考する可能性があります。
なお、市販の過去問の中には、肢イについて事後設立と勘違いしているものがあります。
購入される予定のある方は、ご注意ください。
では、平成17年度 行政書士試験 問題32の解答解説を載せておきます。
問題32 株式会社の設立に関する次の記述のうち、誤っているものの組合せはどれか。
ア 定款に発起人として署名をしていない場合であっても、株式募集の文書において賛同者として氏名を掲げることを承諾した者は、発起人と同一の責任を負う。
イ 発起人が会社の成立を条件として成立後の会社のために一定の営業用の財産を譲り受ける契約をする場合には、譲渡の対象となる財産、その価格、譲渡人の氏名ならびにこれに対して付与する株式の種類および数を定款に記載または記録しなければならない。
ウ 設立に際して作成される定款は、公証人の認証を受けなければ効力を有しないが、会社成立後に定款を変更する場合は、公証人の認証は不要である。
エ 募集設立の場合には、発起人以外の者が、設立に際して発行される株式の全部を引き受けることができる。
オ 設立に際して発行される株式については、その総数の引受ならびに発行価額の全額の払込および現物出資の目的となる財産の全部の給付が必要である。
1 ア・ウ
2 ア・エ
3 イ・エ
4 イ・オ
5 ウ・オ
問題32 正解 3
ア 正しい
会社法103条2項は、「第57条第1項の募集をした場合において、当該募集の広告その他当該募集に関する書面又は電磁的記録に自己の氏名又は名称及び株式会社の設立を賛助する旨を記載し、又は記録することを承諾した者 (発起人を除く。) は、発起人とみなして、前節及び前項の規定を適用する。」と規定している。このように、定款に発起人として署名をしていない場合であっても、株式募集の文書において賛同者として氏名を掲げることを承諾した者は、発起人と同一の責任 (たとえば、出資された財産等の価額が不足する場合の責任 (会社法52条)、損害賠償責任 (同法53条)、連帯責任 (同法54条)、株式会社不成立の場合の責任 (同法56条) の責任) を負う。
イ 誤り
会社法28条2号は、株式会社を設立する場合には、株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称は、第26条第1項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じないと規定している。
したがって、譲渡人に対して付与する株式の種類及び数については、定款に記載し、又は記録することを要しない。
■ 会社法28条1号は、株式会社を設立する場合には、金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数 (設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第32条第1項第1号において同じ。) は、第26条第1項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じないと規定している。このように、現物出資においては、発起人に対して割り当てる設立時発行株式の数 (設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第32条第1項第1号において同じ。) について、定款に記録し、又は記録しなければならない。
■ 本肢のように、発起人が、設立中の会社のために、会社の成立を条件として一定の事業用の財産を譲り受ける契約をすることを財産引受と呼んでいる。この財産引受は、現物出資に関する規制 (たとえば、現物出資は発起人のみが可能であり (会社法63条1項と同法34条1項の対比)、これを定款に記載・記録するほか (同法28条1号)、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要 (同法33条)) の潜脱〔せんだつ。規制をかいくぐることの意。たとえば、発起人が現物出資の規制をかいくぐるため、財産を第三者に譲渡し、財産引受の形で取得する方法が用いられる。〕手段とされる危険があることから、会社法は、財産引受についても、現物出資と同様の規制の下に置いている。
■ 財産引受に似たものとして、事後設立がある。事後設立とは、会社の成立後、代表取締役が会社のためにする一定の事業用の財産を譲り受ける契約である。事後設立は、財産引受に関する規制の潜脱手段として濫用される危険があるため、①契約が会社の成立後2年以内に締結され、②取得の目的たる財産は、会社の成立前から存在するものであって、かつ、会社の事業のために継続して使用するものであり、③取得の対価が、会社の純資産額の5分の1以上に当たるものについては、株主総会の特別決議による承認を得ることが要件とされている (会社法467条1項5号、同法309条2項11号)。なお、平成17年改正前商法においては、事後設立についても、検査役の調査が必要とされていたが、これについては、平成17年の商法の改正により廃止された。
ウ 正しい
会社法30条1項は、「第26条第1項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。」と規定している。このように、公証人の認証を定款の有効要件としたのは、定款の作成及び内容を明確にし、後日の紛争を防止するためである。
これに対し、会社成立後に定款を変更する場合は、定款の変更 (同法466条) の規定に従うため、変更の内容は明確であり、公証人の認証は不要である。
エ 誤り
会社法25条2項は、「各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない。」と規定している。このように、株式会社の設立において、発起人は、設立に際して発行される株式の一部を引き受けなければならないから、発起人以外の者が、その全部を引き受けることはできない。
オ 正しい
株式会社は、①発起人が設立時発行株式 (株式会社の設立に際して発行する株式をいう。) の全部を引き受ける方法 (いわゆる発起設立)、②発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法 (いわゆる募集設立) のいずれかにより設立することができる (会社法25条1項)。
このうち、発起設立の場合、同法32条1項1号は、「発起人は、株式会社の設立に際して発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない。」と規定し、同法34条1項本文は、「発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。」と規定している。このように、発起設立においては、設立時発行株式の全てが引き受けられ、引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額の払込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部の給付がなされる。
募集設立の場合、発起人については、発起設立に関する手続がそのまま当てはまる。また、設立時発行株式を引き受ける者について、同法58条1項は、発起人は、設立時発行株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、設立時募集株式 (当該募集に応じて設立時発行株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる設立時発行株式をいう。) について設立時募集株式の数等の一定の事項を定めなければならないと規定し、同法60条1項本文は、「発起人は、申込者の中から設立時募集株式の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる設立時募集株式の数を定めなければならない。」と規定し、同法62条1号は、当該申込者は、発起人の割り当てた設立時募集株式の数について設立時募集株式の引受人となる (例外的に、設立時募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、設立時募集株式の総数を引き受けた者が、その者が引き受けた設立時募集株式の数について設立時募集株式の引受人となる (同条2項)) と規定し、同法63条1項は、「設立時募集株式の引受人は、第58条第1項第3号の期日又は同号の期間内に、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければならない。」と規定している。このように、設立時発行株式を引き受ける者についても、設立時募集株式のすべてが引き受けられ、引受人は、それぞれの設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければならないことになっている。
したがって、「設立に際して発行される株式については、その総数の引受並びに発行価額の全額の払込及び現物出資の目的となる財産の全部の給付が必要である。」との記述は正しい。
■ なお、発起人や設立時募集株式の引受人が払込又は給付期日までに出資を履行しない場合には、それらの者は、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う (会社法36条3項、63条3項) が、他の者が出資した財産の価額が定款において定めた設立に際して出資される財産の最低額 (同法27条4号) に達していれば、設立手続を続行することができる。逆に、これをみたしていなければ、設立手続を続行することはできず、仮に設立の登記 (同法49条) がなされたとしても、設立無効原因 (なお、設立無効の訴えについては、同法828条1項1号に規定がある。) となる。
■ 平成17年改正前商法166条1項6号は、「会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式ノ総数」を定款の絶対的記載事項とし、同法170条1項は、「発起人ガ会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式ノ総数ヲ引受ケタルトキハ遅滞ナク各株ニ付其ノ発行価額ノ全額ノ払込ヲ為シ且取締役及監査役ヲ選任スルコトヲ要ス」と規定し、同法172条本文は、「現物出資者ハ払込ノ期日ニ出資ノ目的タル財産ノ全部ヲ給付スルコトヲ要ス」と規定し、同法174条は、「発起人ガ会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式ノ総数ヲ引受ケザルトキハ株主ヲ募集スルコトヲ要ス」と規定し、同法177条1項は、「会社ノ設立ニ際シテ発行スル株式ノ総数ノ引受アリタルトキハ発起人ハ遅滞ナク各株ニ付其ノ発行価額ノ全額ノ払込ヲ為サシムルコトヲ要ス」と規定し、同条3項は、「第172条ノ規定ハ第1項ノ場合ニ之ヲ準用ス」と規定していた。以上の規定によれば、「設立に際して発行される株式については、その総数の引受並びに発行価額の全額の払込及び現物出資の目的となる財産の全部の給付が必要である。」との記述は間違いなく正しかった。
以上により、誤っているものは、イ・エであり、正解は3になる。
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