平成18年度 行政書士試験 問題29は、「所有権の原始取得」に関する正誤問題でした。
所有権の原始取得をテーマに、民法に散在する規定をまとめたもので(基本的には、民法239条以下にまとまっていますが)、良問と考えます。
正解肢は、条文そのものであり、得点すべき問題でした。
なお、基本的には、規範定立(解説中の「この点」以下の部分)を問う問題でしたが、事実認定(解説中の文頭から「この点」までの部分)、当てはめ(解説中の「したがって」以下の部分)及び結論(解説中の「よって」以下の部分)も書いておきました。頭の中が、どのように動いて結論を導いているか参考にしてください(ただし、選択肢4は、やや強引に事実認定をしました)。
では、平成18年度 行政書士試験 問題29の解答解説を載せておきます。
問題29 所有権の原始取得に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 Aは、B所有の土地をBの所有であると知りつつ所有の意思をもって平穏かつ公然に10年間占有した場合に、その土地の所有権を取得する。
2 Aの所有する動産とBの所有する動産が付合して分離することが不可能になった場合において、両動産について主従の区別をすることができないときには、AとBは、当然に相等しい割合でその合成物を共有するものとみなす。
3 BがAの所持する材料に工作を加えて椅子を完成させた場合に、その椅子の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aに帰属する。
4 Bの所有する動産がAの所有する不動産に従として付合した場合に、AとBは、AとBとの取決めに関係なく、Aの不動産の価格とBの動産の価格の割合に応じてその合成物を共有する。
5 Aは、所有者のいない動産を所有の意思をもって占有を始めた場合に、その動産の所有権を取得する。
問題29 正解 5
1 妥当でない
Aは、B所有の土地をBの所有であると知りつつ占有を開始している。このように、占有の開始の時に悪意である者が当該土地を時効取得するためには、何年の時効期間が必要か問題となる。
この点、民法162条1項は、「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」と規定し、同条2項は、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と規定している。このように、所有権の時効取得については、善意であれば10年、悪意であれば20年の時効期間が要件となっている。
したがって、Aは、悪意であるから、20年の時効期間が要件となる。
よって、Aは、10年間占有したにすぎないから、当該土地の所有権を取得しない。
2 妥当でない
Aの所有する動産とBの所有する動産が付合して分離することが不可能になった場合において、両動産について主従の区別をすることができないときには、AとBは、どのような割合でその合成物を共有するかが問題となる。
この点、民法243条前段は「所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。」と規定し、同法244条は、「付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。」と規定している。このように、所有者を異にする数個の動産が、付合により、分離することが不可能になった場合、その合成物の所有権は、①主従の区別をすることができるときは、主たる動産の所有者に帰属し、②主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
したがって、AとBは、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
よって、AとBは、当然に相等しい割合でその合成物を共有するものとみなされるわけではない。
3 妥当でない
BがAの所持する材料に工作を加えて椅子を完成させた場合に、その椅子の所有権は、誰に帰属するかが問題となる。
この点、民法246条1項は、「他人の動産に工作を加えた者 (以下この条において「加工者」という。) があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。」と規定している。また、添付に関する民法242条~民法246条の規定は、新しく生じた物の分離・復旧を許さない点においては強行規定であるが、その物の所有権が誰に帰属するかに関する点については任意規定であると解されている。このように、加工者が材料の一部を供していない場合の加工物の所有権は、①当事者間の合意があれば、それに従い、②両当事者の合意がなければ、原則として、材料の所有者に帰属するが、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者に帰属する。
したがって、椅子の所有権は、①AとBとの取決めがあれば、それに従い、②取決めがなければ、原則として、Aに帰属するが、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、Bに帰属する。
よって、椅子の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aに帰属するわけではない。
4 妥当でない
Bの所有する動産がAの所有する不動産に従として付合した場合に、その付合物の所有権は誰に帰属するかが問題となる。
この点、民法242条は、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」と規定している。また、添付に関する民法242条~民法246条の規定は、新しく生じた物の分離・復旧を許さない点においては強行規定であるが、その物の所有権が誰に帰属するかに関する点については任意規定であると解されている。このように、付合物の所有権は、①当事者間の合意があれば、それに従い、②両当事者の合意がなければ、原則として、不動産の所有者に帰属するが、動産の所有者が権原によってその物を附属させたときは、動産の所有者に帰属する (ただし、附属させた物が不動産の構成部分となり、独立の所有権の存在を認めることができないときは、社会経済上、この者の所有権を観念する利益がないから、この例外の適用がない)。
したがって、付合物の所有権は、①AとBとの取決めがあれば、それに従い、②取決めがなければ、原則として、Aに帰属するが、Bが権原によってその物を附属させたときは、Bに帰属する。
よって、合成物の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aの不動産の価格とBの動産の価格の割合に応じてその合成物を共有するわけではない。
5 妥当である
民法239条1項は、「所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」と規定している。
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所有権の原始取得をテーマに、民法に散在する規定をまとめたもので(基本的には、民法239条以下にまとまっていますが)、良問と考えます。
正解肢は、条文そのものであり、得点すべき問題でした。
なお、基本的には、規範定立(解説中の「この点」以下の部分)を問う問題でしたが、事実認定(解説中の文頭から「この点」までの部分)、当てはめ(解説中の「したがって」以下の部分)及び結論(解説中の「よって」以下の部分)も書いておきました。頭の中が、どのように動いて結論を導いているか参考にしてください(ただし、選択肢4は、やや強引に事実認定をしました)。
では、平成18年度 行政書士試験 問題29の解答解説を載せておきます。
問題29 所有権の原始取得に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 Aは、B所有の土地をBの所有であると知りつつ所有の意思をもって平穏かつ公然に10年間占有した場合に、その土地の所有権を取得する。
2 Aの所有する動産とBの所有する動産が付合して分離することが不可能になった場合において、両動産について主従の区別をすることができないときには、AとBは、当然に相等しい割合でその合成物を共有するものとみなす。
3 BがAの所持する材料に工作を加えて椅子を完成させた場合に、その椅子の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aに帰属する。
4 Bの所有する動産がAの所有する不動産に従として付合した場合に、AとBは、AとBとの取決めに関係なく、Aの不動産の価格とBの動産の価格の割合に応じてその合成物を共有する。
5 Aは、所有者のいない動産を所有の意思をもって占有を始めた場合に、その動産の所有権を取得する。
問題29 正解 5
1 妥当でない
Aは、B所有の土地をBの所有であると知りつつ占有を開始している。このように、占有の開始の時に悪意である者が当該土地を時効取得するためには、何年の時効期間が必要か問題となる。
この点、民法162条1項は、「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」と規定し、同条2項は、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と規定している。このように、所有権の時効取得については、善意であれば10年、悪意であれば20年の時効期間が要件となっている。
したがって、Aは、悪意であるから、20年の時効期間が要件となる。
よって、Aは、10年間占有したにすぎないから、当該土地の所有権を取得しない。
2 妥当でない
Aの所有する動産とBの所有する動産が付合して分離することが不可能になった場合において、両動産について主従の区別をすることができないときには、AとBは、どのような割合でその合成物を共有するかが問題となる。
この点、民法243条前段は「所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。」と規定し、同法244条は、「付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。」と規定している。このように、所有者を異にする数個の動産が、付合により、分離することが不可能になった場合、その合成物の所有権は、①主従の区別をすることができるときは、主たる動産の所有者に帰属し、②主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
したがって、AとBは、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
よって、AとBは、当然に相等しい割合でその合成物を共有するものとみなされるわけではない。
3 妥当でない
BがAの所持する材料に工作を加えて椅子を完成させた場合に、その椅子の所有権は、誰に帰属するかが問題となる。
この点、民法246条1項は、「他人の動産に工作を加えた者 (以下この条において「加工者」という。) があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。」と規定している。また、添付に関する民法242条~民法246条の規定は、新しく生じた物の分離・復旧を許さない点においては強行規定であるが、その物の所有権が誰に帰属するかに関する点については任意規定であると解されている。このように、加工者が材料の一部を供していない場合の加工物の所有権は、①当事者間の合意があれば、それに従い、②両当事者の合意がなければ、原則として、材料の所有者に帰属するが、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者に帰属する。
したがって、椅子の所有権は、①AとBとの取決めがあれば、それに従い、②取決めがなければ、原則として、Aに帰属するが、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、Bに帰属する。
よって、椅子の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aに帰属するわけではない。
4 妥当でない
Bの所有する動産がAの所有する不動産に従として付合した場合に、その付合物の所有権は誰に帰属するかが問題となる。
この点、民法242条は、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」と規定している。また、添付に関する民法242条~民法246条の規定は、新しく生じた物の分離・復旧を許さない点においては強行規定であるが、その物の所有権が誰に帰属するかに関する点については任意規定であると解されている。このように、付合物の所有権は、①当事者間の合意があれば、それに従い、②両当事者の合意がなければ、原則として、不動産の所有者に帰属するが、動産の所有者が権原によってその物を附属させたときは、動産の所有者に帰属する (ただし、附属させた物が不動産の構成部分となり、独立の所有権の存在を認めることができないときは、社会経済上、この者の所有権を観念する利益がないから、この例外の適用がない)。
したがって、付合物の所有権は、①AとBとの取決めがあれば、それに従い、②取決めがなければ、原則として、Aに帰属するが、Bが権原によってその物を附属させたときは、Bに帰属する。
よって、合成物の所有権は、AとBとの取決めに関係なく、Aの不動産の価格とBの動産の価格の割合に応じてその合成物を共有するわけではない。
5 妥当である
民法239条1項は、「所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」と規定している。
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