平成19年度 行政書士試験 問題17は、「行政事件訴訟法の訴訟類型の選択」に関する問題でした。
この手の、訴訟類型の選択やその要件については、新司法試験では常に問題とされますが、行政書士試験では、これまでは出題がなされたことは少なかったです。
平成20年度試験の記述式も、これに関するものから出題されましたから、今後は、訴訟類型の選択に関する問題は、要注意だと思います。
ただ、この分野は、条文そのままでなく、本問の選択肢2や選択肢4のように、具体的事例と絡めて問題となった場合、非常に難しくなるので、解説を書ける人がほとんどいないような気がします。
現に、本問に関する数社の解答解説は、選択肢2の判例すら載せていませんでした。当方が間違っているのかとも思いますが、非常に驚いています。
したがって、過去問の解答解説を買われるときは、本問の選択肢2や選択肢4の解説がきちんと書かれているかを基準に購入なさるとよいかと思います。
では、平成19年度 行政書士試験 問題17の解答解説を載せておきます。
問題17 行政事件訴訟法上の訴訟類型の選択に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 Xの家の隣地にある逮築物が建築基準法に違反した危険なものであるにもかかわらず、建築基準法上の規制権限の発動がなされない場合、Xは、当該規制権限の不行使につき、不作為違法確認訴訟を提起することができる。
2 Xらの近隣に地方公共団体がごみ焼却場の建設工事を行っている場合、建設工事は処分であるから、Xらは、その取消訴訟と併合して、差止め訴訟を提起し、当該地方公共団体に対して建設工事の中止を求めることができる。
3 Xが市立保育園に長女Aの入園を申込んだところ拒否された場合において、Xが入園承諾の義務付け訴訟を提起する場合には、同時に拒否処分の取消訴訟または無効確認訴訟も併合して提起しなければならない。
4 Xが行った営業許可申請に対してなされた不許可処分について、同処分に対する取消訴訟の出訴期間が過ぎた後においてなお救済を求めようとする場合には、Xは、公法上の当事者訴訟として、当該処分の無効の確認訴訟を提起することができる。
5 X所有の土地について違法な農地買収処分がなされ、それによって損害が生じた場合、Xが国家賠償請求訴訟を提起して勝訴するためには、あらかじめ、当該買収処分の取消訴訟または無効確認訴訟を提起して請求認容判決を得なければならない。
問題17 正解 3
1 妥当でない
不作為の違法確認訴訟は、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいい (行政事件訴訟法3条5号)、行政庁の不作為一般に対処するものではない。本問のように、行政庁が第三者に対して規制権限を発動しないという不作為が違法であると主張してする訴訟は、もっぱら義務付けの訴えによるべきである。ここに「義務付けの訴え」とは、①行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき (②の場合を除く。)、②行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないときにおいて、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう (同法3条6号)。
したがって、Xの家の隣地にある逮築物が建築基準法に違反した危険なものであるにもかかわらず、建築基準法上の規制権限の発動がなされない場合、Xは、当該規制権限の不行使につき、前記①の義務付けの訴えを提起することになる。
2 妥当でない
判例 (最判昭和39年10月29日) は、「行政事件訴訟特例法1条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、当裁判所の判例とするところである (最判昭和30年2月24日)。」としている。本判決は、行政事件訴訟特例法1条の「行政庁の違法な処分」についての判例であるが、この判断は、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の解釈についても基本的に妥当すると解されている。このため、行政事件訴訟法3条2項の規定する「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されている。
したがって、仮にXらがゴミ焼却場の建設工事によって、騒音、交通渋滞等の不利益を被ることがあるとしても、当該工事は地方公共団体が公権力の行使により直接Xらの権利義務を形成し、又はその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するものということはできないから、行政事件訴訟法3条2項の規定する「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」にあたらない。よって、Xらは、取消訴訟を提起することはできない (前記昭和39年判決同旨)。
同様に、差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる (行政事件訴訟法37条の4) のであって、ごみ焼却場の建設工事が行政庁の処分にあたらない以上、当該差止めの訴えも提起することはできない。
■ なお、前記昭和39年判決は、ごみ焼却場の設置という一連の行為を、①用地の買収、②ごみ焼却場の設置の計画、③当該計画案を議会に提出した行為、④建築会社との請負契約、⑤建築工事に分解して一つ一つ分析し、①及び④については私法上の契約であり、②及び③については内部的手続行為であり、⑤については単なる事実行為であるとして処分性を認めなかった。
3 妥当である
行政庁に対し一定の処分を求める旨の法令に基づく申請がされた場合において、当該行政庁がその申請を拒否する処分を行ったときは、申請をした者は、(拒否処分対応型) 義務付けの訴えを提起することができる (行政事件訴訟法3条6号2号、37条の3第1項2号、同条2項)。
そして、当該義務付けの訴えを提起するときは、拒否処分に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない (同条3項)。
よって、Xが市立保育園に長女Aの入園を申込んだところ拒否された場合において、Xが入園承諾の義務付け訴訟を提起する場合には、同時に拒否処分の取消訴訟または無効確認訴訟も併合して提起しなければならない。
4 妥当でない
行政事件訴訟法4条は、「この法律において『当事者訴訟』とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。」と規定している。このうち、本条前段の「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」は、処分又は裁決という公権力の行使を争うものであり、本来は抗告訴訟として提起されるべきものであるが、立法政策により、法令の規定により形式的に当事者訴訟とされていることから「形式的当事者訴訟」と呼ばれている。また、本条後段の「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」は、行政庁の処分その他公権力の行使を争うものでなく (その意味で抗告訴訟の性質を有しない)、現在の公法上の法律関係に関する訴訟であることから「実質的当事者訴訟」と呼ばれている。そして、この訴訟は、公法上の法律関係を対象とするものであることから、私法上の法律関係に関する民事訴訟と区別して、「公法上の当事者訴訟」と呼ばれている。
本選択肢においては、「Xは、公法上の当事者訴訟として、当該処分の無効の確認訴訟を提起することができる」かどうかが問われており、これは、行政庁の処分その他公権力の行使を争うものであるから、形式的当事者訴訟として許されるかが問題となる。
この形式的当事者訴訟の「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分」とは、選択肢2で述べた処分性と同様と解されているが、「当事者間の法律関係」とされていることから、当事者間の相互的な権利義務関係 (たとえば、私人相互間の法律関係 (具体例としては、土地の収用等に伴う損失補償をめぐる起業者と土地所有者の関係 (土地収用法48条1項2号、133条))、国民と行政主体の法律関係 (具体例としては、自衛隊の訓練のため漁船の操業の制限等を受けた漁業者の損失補償をめぐる漁業者と国の関係 (自衛隊法105条2項、9項、10項))) を確認等する処分に限られ、国民の権利義務のみを確認等する処分は、これに含まれないと解されている。
本選択肢において、無効確認の対象は、Xが行った営業許可申請に対してなされた不許可処分であり、当事者間の相互的な権利義務関係を確認等する処分ではない。
したがって、Xは、公法上の当事者訴訟として、Xに対してなされた営業許可申請に対する不許可処分の無効の確認訴訟を提起することはできない。
5 妥当でない
判例 (最判昭和36年4月21日) は、行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ当該行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないとしている。
したがって、Xが国家賠償請求訴訟を提起して勝訴するためには、あらかじめ、当該買収処分の取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して請求認容判決を得ることを要しない。
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