平成20年度 行政書士試験 問題32は、「売買」に関する事例問題でした。
基本的には、問題31と同様に、当てはめで悩むことはほとんどなく、規範部分の判例を知っているかを問う問題でした。
本問で問われた判例は、かなり高度な部類に属するもので、司法試験で出題されてもおかしくない問題でした。ですから、本問は、正解すればラッキー程度に思っておいた方が良いと思います。
なお、問題31と同様、本問についても、判例の理由付けの部分は割愛していますが、本年度行政書士試験を受けられる方は、その理由付けについても、裁判所のホームページや判例集(おそらく、有斐閣の判例百選位にはのっているかも。小生の作っている六法には当然載せる予定です。)を立ち読むので結構ですから、フォローしておくことをおすすめします。
では、平成20年度 行政書士試験 問題32の解答解説を載せておきます。
問題32 AがBに対して自己所有の家屋を売る契約をした場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。
1 Aが当該家屋をBに引き渡すまでの間は善管注意義務をもって当該家屋を保存・管理しなければならないので、Aの履行遅滞中に不可抗力で当該家屋が滅失してもAが善管注意義務を尽くしていれば責任を負わない。
2 Bが登記を備える前に、AがCに対して当該家屋を二重に売ってしまった場合、CがBより先に仮登記を備えたときでも、AのBに対する債務は未だ履行不能とはならない。
3 Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知っているDに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、Bは、それだけではDに対して債権侵害を理由とする不法行為責任を追及できない。
4 Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知らないEに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、BがAに対して履行不能による損害賠償を請求するときは、価格が騰貴しつつあるという特別の事情があれば、転売・処分の可能性がなくても、騰貴前に処分したことが予想されない限り、騰貴した現在の価格を特別損害とすることができる。
5 Bが登記を備える前に、Aが、Bを害することを知っているFと通謀して当該家屋をFに対して代物弁済し、登記を移転してしまった場合、Aがその結果無資力となれば、Bは、A・F間の代物弁済を、詐害行為を理由に取り消すことができる。
問題32 正解 1
1 妥当でない。
判例 (大判明治39年10月29日)は、債務者が履行遅滞の状態にある間に不能となれば、たとえそれが不可抗力による場合でも、なお、原則として、債務者の責めに帰すべき履行不能になるとしている。
したがって、Aの履行遅滞中に不可抗力で当該家屋が滅失した場合において、Aが善管注意義務を尽くしていたときでも、Aは履行不能の責任を負う。
2 妥当である。
判例 (最判昭和46年12月16日)は、不動産所有者 (Y) がある者 (X) に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、第三者 (Z) のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだYのXに対する売買契約上の義務の履行が不能になったと解することはできないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがCに対して当該家屋を二重に売ってしまった場合、CがBより先に仮登記を備えたときでも、AのBに対する債務は未だ履行不能とはならない。
※ なお、判例の事案は、債務不履行解除の事案である。
3 妥当である。
判例 (最判昭和30年5月31日)は、ある者 (Y) が不動産所有者 (X) からその所有する不動産を買い受けて登記を経ないうちに、第三者 (Z) がXから当該不動産を二重に買い受けて登記を移転してしまった場合において、Zがその買受当時XY間の売買の事実を知っていたというだけでは、ZはYに対し不法行為責任を負わないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知っているDに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、Bは、それだけではDに対して債権侵害を理由とする不法行為責任を追及できない。
4 妥当である。
判例 (最判昭和37年11月16日)は、債務の目的物を債務者が不法に処分し、債務が履行不能となった場合に、債権者の請求しうる損害賠償の額は、原則として、その処分当時の目的物の時価であるが、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ、債務者が債務を履行不能とした際その特別の事情を知っていたか又は知り得た場合は、債権者はその騰貴した現在の時価による損害賠償を請求しうるとした上で、債権者が当該価格まで騰貴しない前に目的物を他に処分したであろうと予想された場合はこの限りでなく、また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、あたかも現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知らないEに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、BがAに対して履行不能による損害賠償を請求するときは、価格が騰貴しつつあるという特別の事情があれば、転売・処分の可能性がなくても、騰貴前に処分したことが予想されない限り、騰貴した現在の価格を特別損害とすることができる。
5 妥当である。
判例 (最大判昭和36年7月19日)は、本選択肢と同様の事案において、詐害行為取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物引渡請求権といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、特定物債権者は、処分行為を詐害行為として取り消すことができるとしている。
したがって、特定物債権者Bが登記を備える前に、Aが、Bを害することを知っているFと通謀して当該家屋をFに対して代物弁済し、登記を移転してしまった場合、Aがその結果無資力となれば、Bは、A・F間の代物弁済を、詐害行為を理由に取り消すことができる。
※ なお、判例 (大判大正8年7月11日)は、不動産を相当価格で代物弁済にあてた事例につき、代物弁済は債務の本旨に従った履行ではないから、債務者はこれをなすか否かはその自由であり、それにより共同担保を減少することは詐害行為になるとしている。
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基本的には、問題31と同様に、当てはめで悩むことはほとんどなく、規範部分の判例を知っているかを問う問題でした。
本問で問われた判例は、かなり高度な部類に属するもので、司法試験で出題されてもおかしくない問題でした。ですから、本問は、正解すればラッキー程度に思っておいた方が良いと思います。
なお、問題31と同様、本問についても、判例の理由付けの部分は割愛していますが、本年度行政書士試験を受けられる方は、その理由付けについても、裁判所のホームページや判例集(おそらく、有斐閣の判例百選位にはのっているかも。小生の作っている六法には当然載せる予定です。)を立ち読むので結構ですから、フォローしておくことをおすすめします。
では、平成20年度 行政書士試験 問題32の解答解説を載せておきます。
問題32 AがBに対して自己所有の家屋を売る契約をした場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。
1 Aが当該家屋をBに引き渡すまでの間は善管注意義務をもって当該家屋を保存・管理しなければならないので、Aの履行遅滞中に不可抗力で当該家屋が滅失してもAが善管注意義務を尽くしていれば責任を負わない。
2 Bが登記を備える前に、AがCに対して当該家屋を二重に売ってしまった場合、CがBより先に仮登記を備えたときでも、AのBに対する債務は未だ履行不能とはならない。
3 Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知っているDに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、Bは、それだけではDに対して債権侵害を理由とする不法行為責任を追及できない。
4 Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知らないEに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、BがAに対して履行不能による損害賠償を請求するときは、価格が騰貴しつつあるという特別の事情があれば、転売・処分の可能性がなくても、騰貴前に処分したことが予想されない限り、騰貴した現在の価格を特別損害とすることができる。
5 Bが登記を備える前に、Aが、Bを害することを知っているFと通謀して当該家屋をFに対して代物弁済し、登記を移転してしまった場合、Aがその結果無資力となれば、Bは、A・F間の代物弁済を、詐害行為を理由に取り消すことができる。
問題32 正解 1
1 妥当でない。
判例 (大判明治39年10月29日)は、債務者が履行遅滞の状態にある間に不能となれば、たとえそれが不可抗力による場合でも、なお、原則として、債務者の責めに帰すべき履行不能になるとしている。
したがって、Aの履行遅滞中に不可抗力で当該家屋が滅失した場合において、Aが善管注意義務を尽くしていたときでも、Aは履行不能の責任を負う。
2 妥当である。
判例 (最判昭和46年12月16日)は、不動産所有者 (Y) がある者 (X) に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、第三者 (Z) のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだYのXに対する売買契約上の義務の履行が不能になったと解することはできないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがCに対して当該家屋を二重に売ってしまった場合、CがBより先に仮登記を備えたときでも、AのBに対する債務は未だ履行不能とはならない。
※ なお、判例の事案は、債務不履行解除の事案である。
3 妥当である。
判例 (最判昭和30年5月31日)は、ある者 (Y) が不動産所有者 (X) からその所有する不動産を買い受けて登記を経ないうちに、第三者 (Z) がXから当該不動産を二重に買い受けて登記を移転してしまった場合において、Zがその買受当時XY間の売買の事実を知っていたというだけでは、ZはYに対し不法行為責任を負わないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知っているDに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、Bは、それだけではDに対して債権侵害を理由とする不法行為責任を追及できない。
4 妥当である。
判例 (最判昭和37年11月16日)は、債務の目的物を債務者が不法に処分し、債務が履行不能となった場合に、債権者の請求しうる損害賠償の額は、原則として、その処分当時の目的物の時価であるが、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ、債務者が債務を履行不能とした際その特別の事情を知っていたか又は知り得た場合は、債権者はその騰貴した現在の時価による損害賠償を請求しうるとした上で、債権者が当該価格まで騰貴しない前に目的物を他に処分したであろうと予想された場合はこの限りでなく、また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、あたかも現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないとしている。
したがって、Bが登記を備える前に、AがBへの譲渡を知らないEに対して当該家屋を二重に売ってしまい、登記を移転してしまった場合、BがAに対して履行不能による損害賠償を請求するときは、価格が騰貴しつつあるという特別の事情があれば、転売・処分の可能性がなくても、騰貴前に処分したことが予想されない限り、騰貴した現在の価格を特別損害とすることができる。
5 妥当である。
判例 (最大判昭和36年7月19日)は、本選択肢と同様の事案において、詐害行為取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物引渡請求権といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、特定物債権者は、処分行為を詐害行為として取り消すことができるとしている。
したがって、特定物債権者Bが登記を備える前に、Aが、Bを害することを知っているFと通謀して当該家屋をFに対して代物弁済し、登記を移転してしまった場合、Aがその結果無資力となれば、Bは、A・F間の代物弁済を、詐害行為を理由に取り消すことができる。
※ なお、判例 (大判大正8年7月11日)は、不動産を相当価格で代物弁済にあてた事例につき、代物弁済は債務の本旨に従った履行ではないから、債務者はこれをなすか否かはその自由であり、それにより共同担保を減少することは詐害行為になるとしている。
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